姓を奪われた人たち:ベトナムにグエンがこれほど増えた800年と名前の読み方
ベトナムはなぜ 姓を奪われた人たち:ベトナムにグエンがこれほど増えた800年と名前の読み方 ベトナムでは三人に一人ほどがグエン姓です。ところが政府が姓を数えていないので、正確な数字は誰も知りません。この姓がここまで増えた理由は1232年の記録から始まります。 2026-09-18 ホーチミン市の歩行者天国もグエンです。西山朝を開いた光中帝の本名です。 ホテルのフロントで必ず起きること ベトナムに三日いれば、グエンという名前を一日に何度も目にします。フロント係の名札にあり、タクシー運転手の登録証にあり、さっき通り過ぎた道の名前にもあります。 最初は偶然だと思います。ところが次の街へ移ってもまったく同じです。ガイドもグエン、食堂の主人もグエン、空港で対応してくれた職員もグエンです。 この国では三人に一人、多い推計では四人に一人以上がこの姓を名乗ります。日本でいちばん多い佐藤さんが人口の1.5%ほどですから、桁がふたつ違う世界です。 そこで二日目あたり、宿帳にグエンが四人並んでいるのを眺めながら、誰もが同じ疑問にたどり着きます。どうして一つの名前が国全体を覆ってしまったのか。 名字だけでは人を特定できません ホテルの予約リストにグエンが複数並ぶのは日常です。係員は姓を聞いても誰だか分からないので、名前のほうをもう一度尋ねます。 ベトナムで人を姓で呼ばない理由がここにあります。姓で呼びかけたら、その場の半分が振り向いてしまいます。 フロントで姓を言って聞き返されても、発音が悪かったわけではありません。名前の最後のほうをひと言添えると一発で見つかります。 旅行全体を組むなら、まずベトナム旅行ガイドを見ると順番が決まります。 ホーチミン市中心部の歩行者天国の名前はグエン・フエ。西山朝を開いた光中帝の本名です。 どれが苗字なのか ベトナムの名前は姓が先に来ます。日本や中国、韓国と同じ並びです。 違うのは真ん中です。姓、ミドルネーム、名前の三つに分かれています。 グエン・ティ・トゥオンヴィという名前なら、グエンが姓、ティがミドルネーム、トゥオンヴィが名前です。呼ぶときに使うのは最後のトゥオンヴィです。 ミドルネームが性別を知らせていた時代 古いやり方では、真ん中に決まった字を入れました。女性はティ(Thị)、男性はヴァン(Văn)です。 ベトナム語の名前は男女どちらでも使える字が多いので、名前を見ただけで性別が分かるようにした仕組みでした。年配の方の名前にはこの二字が頻繁に出てきます。 いまはこの付け方をしない家庭が増えました。代わりに意味のいい字を選びます。ミンは明るい、ゴックは玉、ドゥックは徳、バオは宝、クインは夜に咲く花です。 同じ名前が多すぎて生まれた枠です ミドルネームには別の働きもあります。姓が十数種類しかないので、姓と名前だけでは同姓同名が次々に出てしまいます。 真ん中に一枠あれば区別がつきやすくなります。一族の世代を示したり、先祖の名前から一字もらったりもします。 ミドルネームを二つ持つ人もいます。ベトナムの名前が三つに分かれていたり四つに分かれていたりするのはそのためです。前と後ろは固定で、真ん中だけが伸び縮みします。 四つに分かれている名前をどう読むか 名刺に四つ並んでいると、どこで切るか迷います。判断の仕方は単純で、先頭が姓、末尾が名前、あいだは全部ミドルネームです。 グエン・ティ・トゥオン・ヴィと四つに見える場合でも、姓はグエン、呼ぶのはトゥオン・ヴィです。真ん中のティだけがミドルネームになります。 末尾が一音節か二音節かは、見ただけでは分かりません。トゥオン・ヴィは二音節でひとつの名前ですが、別の人ならヴィだけが名前でトゥオンがミドルネームということもあります。 迷ったら本人に聞くのがいちばん早いです。ベトナムの人にとっても「どこからが名前か」は説明し慣れた話題で、嫌な顔はされません。 姓が先頭に来ますが、呼ぶときは末尾を使います。真ん中のミドルネームは口に出しません。 ベトナムの身分証は氏名欄が一つです。姓とミドルネームと名前が一行に入ります。 呼ぶときは後ろからです ベトナムでは社長も医者も名前のほうで呼びます。初対面でも、公の場でも変わりません。 姓で呼ぶ習慣がそもそもありません。数が少なすぎて、呼んでも情報にならないからです。 丁寧さを担っているのは、名前の前に置く語のほうです。年齢と関係を示す語を付けます。 丁寧さを担うのは名前の前に置く語です。自分より少し年上の男性にはanh、女性にはchị。年下にはem、祖父母の世代には男性がông、女性がbàです。相手の名前ではなく相手との関係で変わります。 ミドルネームは口に出しません ティは声に出しません。グエン・ティ・トゥオンヴィはトゥオンヴィと呼び、語を付けて「チ・トゥオンヴィ」になります。 名前が一音節なら、その一音節だけを呼びます。名札にLinhとだけあれば、リンと呼べば通じます。 ベトナムの名前は、書かれた形と呼ばれる形が別物です。この差が旅行者をいちばん戸惑わせます。 日本人がやりがちな間違い 名刺をもらって姓で挨拶する癖があると、ここで空回りします。グエンさん、と呼びかけると相手が一瞬止まります。 失礼ではありませんが、誰も使わない言い方なので不自然に響きます。名前のほうを呼ぶのが自然です。 会議で相手を指すときも同じです。日本語の感覚では砕けて聞こえますが、ベトナムではこれが正式な呼び方です。名刺に肩書きが並んでいても、口にするのは名前のほうだと覚えておくと迷いません。 どれが名前か分からないときはいちばん後ろの一つか二つを呼べば、たいてい当たります。 呼び方と挨拶はベトナムのマナーとチップでもう少し詳しく扱っています。 ところが誰も正確に数えていません 「40%」という数字をどこかで見たはずです。出典をたどると行き止まりに出ます。 ベトナム政府は姓を数えていません。戸籍制度が個人の情報だけを管理していて、どの姓が何人いるかは集計項目に入っていないからです。公安省の国家人口データベースも姓の比率を公表したことがありません。 ですから出回っている数字はすべて研究者の推計です。そしてその推計が食い違います。 二位が誰かも資料によって違います … 続きを読む